2012年11月26日月曜日

prodigy Children are great imitators!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita
カタカナ読みは「プラディジ」。語源は15世紀にさかのぼり、あっと驚くような兆候を指す。転じて「天才児」「神童」を意味する。child prodigyなどと、表現することもある。
 ニューヨーク・タイムズ(2012年10月31日付)は、“How do you raise a prodigy?”(どのように神童を育てるか)と報道。その中で、“Prodigiousness manifests most often in athletics, mathematics, chess and music.”(神童ぶりは、運動競技、数学、チェスや音楽で発揮されることが多い)と指摘する。
 確かに。ロンドン五輪を見ていても、馬鹿力を必要としない体操なんかの競技では、選手はどんどん低年齢化が進んでいて、もはやおじさんやおばさんの出る幕はない。チェスや将棋、囲碁なんかのゲームもそうだ。
 英国のインデペンダンス(2012年11月24日付)は、“I never wanted men's pity': Chess child prodigy Judit Polgar on the game's inherent sexism”(男に哀れみなんか乞わないわ、と。チェスの天才少女ジュディット・ポルガーは、ゲームの女性差別について)と報じた。ポルガーさんはハンガリー生まれの15歳でchess grandmasterになった。これは男女の別を越えて最年少記録だ。彼女は現在36歳で2児の母親としてブダペストに住む。
 実は、彼女の2人の姉はいずれもチェスをしており、一番上の長女は女性の世界チャンピオンで、次女は国際チェスマスター。いずれも女性だけのチェスだったが、ジュディットは男性の世界に〝殴り込み〟をかけて、見事栄冠を勝ち取ったのだ。男女における才能の格差など存在しないことを改めて証明したといえる。
 一方、米ABCニュース(2012年10月23日付)は、“Child prodigy writes opera at age 7”(天才児、7歳でオペラを書く)と報じた。英国在住のアルマ・ドイッシャーさんは、モーツァルトに勝るとも劣らぬ音楽的才能を示すと評判が高い。モーツァルトが3歳で音楽を演奏したのに対し、アルマさんは2歳で演奏。モーツァルトが5歳で最初の曲を作ったのに対し、アルマさんは4歳で作曲を始めた。そして7歳でオペラ、“The Dream Sweeper”(夢払い人)を作ったというわけ。 
 prodigyは世界中で注目を集める。だが、天才性を示す一方で、normal child(普通の子供)と違い、autism(自閉症)やattention deficit hyperactivity disorder(ADHD=注意欠陥多動性障害)などの症状を抱えることもあるだけに、養育や指導は普通の子供以上に困難を伴うとも。
 だが、prodigyにはひとつ教訓がある。“Children are great imitators. So give them something great to imitate.”(子供は偉大な模倣者だ。だから、彼らに立派な模範を示せ)ということ。どの子供の親も実に責任は重大なのだ。






2012年11月22日木曜日

metrosexual 僕の男らしさを見てくれ!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 21世紀のダンディズムを表す新語。metropolis(大都市)のmetroと性愛を表す接尾辞のsexualを組み合わせた形容詞、名詞で、1994年に英ジャーナリストのマーク・シンプソン氏が創り出した。「都会に住んで、一流のブランド店やヘアドレッサー、ジムに通う若い男性で、表向きにはgay(男同士の同性愛)、straight(同性愛でない)、bisexual(男性も女性も愛する)であるかを問わず、本心は自分自身を性愛の対象とするナルシシスト」と定義付ける。
 この言葉に当てはまる人物として、シンプソン氏はサッカーW杯・イングランド代表チームの主将、デビッド・ベッカムを例示。「Becks(ベッカムの愛称)は、サッカーの派手なプレーとともに、毎週のように違った髪形で登場し、雑誌の表紙で裸体を披露することで有名だ」(「Metrosexualに出会う」=2002年7月22日)と解説している。
 metrosexualは米国へ輸出されて、masculinity(男らしさ)の新たな表現形式としてメディアで論じられ、流行語となった。スポーツやボディービルなどで鍛えた肉体美を誇示することが要素のひとつで、俳優のトム・クルーズ、ブラッド・ピットや、アーノルド・シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事などが該当する。米国方言学会(ADS)は03年に、metrosexualを「Word of the Year」に選んだ。
 言葉の持つ意味は時間を追って変化する。この語のニュアンスについて、シンプソン氏は「よいこととは思っておらず、笑い物にするつもりだった」(2004年1月5日)と語る。だが、“生みの親”の意図とは離れ、metrosexualは一人歩きを始める。commercialism(商業主義)の波に乗り、都会暮らしのcool(カッコいい)な男のlife-style(生活様式)を表す言葉に変わった。
 「Metrosexual へのスタイル・ガイド、現代の男のハンドブック」も出版された。著者のマイケル・フロッカー氏は、AOLタイム・ワーナーの編集者で、「すべての男は自分を磨くことでよくなる。コンピューターをアップグレードするように、自分自身を新時代のmetrosexualな男性にアップグレードできる」と指摘。とくに服装は大切だとして、どんなシャツやズボンを身に着けるべきか事細かに指南している。時計のベルトは皮のほうが男らしいとか…。
 では、metrosexuality(名詞)は、男の自信の表れか、あるいは男の弱さの印か?
 シンプソン氏は「両方だ」と答える。「男としてのidentityへの不安が背景にあることは確かだが、一方で、男にとって性的な自信や性的解放を示す言葉になっている」。
 思うに、metrosexualityは、私流に訳すと「見てくれの男らしさ」。metrosexualは、「僕の男らしさを見てくれ」といわんばかりの目立ちたがりのことか。The Sankei Shimbun (June 18 2006)

PS:ここに出てくる男たちは、いまやみんなシニアモードに入ったが・・・

abs ニーチェの言葉を思いだそう!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 abはabdominal muscle(腹部の筋肉、つまり腹筋)の略。通常、複数形で使うのでabs。カタカナ読みは「アブス」。アメリカのテレビでこの言葉を聞かない日はない。“Flatten your abs.”(腹をひっこめろ)というのは、フィットネスの最大の目標だ。
 アメリカ人の6割以上がoverweight(体重過多)かobesity(肥満)と警告されるだけに、男女ともにbelly(腹)がpooch outした(出っ張った)人がやたらに目につく。いわゆる「ビール腹」は英語でもbeer belly。waist lineのあたりにfat(脂肪)が付いて垂れ下がっている状態をさすが、ビールの摂取とは関係なく、やはり高カロリー、高脂肪の食物の摂り過ぎが原因である。
腹回りに突出した贅肉は、俗語でlove handles(ラブ・ハンドルズ)とかspare tire(スペア・タイヤ)と呼ぶ。太っているのに無理して股上が浅いきつめのジーンズをはくと、それらがジーンズからはみ出して、上部が盛り上がったカップケーキのように見えるので muffin top(マフィン・トップ) などと表現。言い得て妙だ。
 夏場は薄着になるので、フィットネスの欲求が高まる。ジムは盛況で、ab exercise(腹筋運動)の専用マシンの販売にも拍車がかかる。
“How can I get six-pack abs or washboard abs?”(どうすれば6つに割れた腹筋、洗濯板のような引き締まった腹筋が獲得できるのか?)“You should work your abs.”(腹筋を鍛えろよ)
 筆者が知るなかで、最もすばらしい腹筋をしていたのは、映画俳優で拳法の達人、ブルース・リー。彼の鍛え上げた肉体は全世界の少年らを魅了した。妻のリンダさんの後日談によると、ブルース・リーはab trainingのマニアで、暇さえあればsit-upやcrunchなどの運動を続けたという。
  和英辞書を引くと、腹筋運動の項目にはsit-upが載っている。仰向けに寝た状態から上半身を起こす一般的な腹筋運動がこれだ。crunchは腰を浮かさないように頭を持ち上げ、背中の上方部だけを丸めるようにする。これは、腹部の中心にある腹直筋を鍛えることになり、効果が期待できる。
 もっとも、“You’ll never get sexy abs with crunches and sit-ups.”(腹筋運動だけではセクシーな腹筋にはならない)と、フィットネスの専門家は指摘する。そもそも、カロリー過多の結果、腹が出ることになったので、すでに全身が腹部と同じような状態にあると考えたほうがよい。腹回りをすっきりさせるためには、ジョギングやエアロビクスなど、全身を使った有酸素運動が必要だが、それ以前に飲み過ぎ食べ過ぎに要注意だ。
 ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェはこう言っている。“The abdomen is the reason why man does not readily take himself to be a god.”(この腹というものがあるために、人間はやすやすと神になれないのである)The Sanei Shimbun(June 25 2006)

2012年11月21日水曜日

wiretap Walls have ears!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 wiretapはwire(線)にtapする(取り付ける)という意味。カタカナ読みは「ワイアータップ」。いったい何を取り付けるのかと言えば、concealed listening or recording device(隠れて聴取し、記録する機器)。つまりwiretapは「盗聴」を意味する。古い英語ではeavesdrop。本来の意味は、eaves(軒)からdrop(雨のしずく)が垂れるような所に立って、盗み聞きすること。現代の盗み聞きはtelephone tap(電話盗聴)が中心だが、これだけケータイが増えるとwirelessも無視できない。そこで、役所の正式の言い方はintercept(通信傍受)。
 2001年の9.11中枢同時テロ以降、ブッシュ政権は電話会社を通じて、国内外の電話の盗聴を続けてきた。国際テロ組織アルカーイダの脅威に対し、情報収集で先手を打つためだ。
 ニューヨーク・タイムズは2005年末に、NSA(国家安全保障局)が電話を勝手に盗聴していると、すっぱ抜いた。NSAはCIA(中央情報局)と並んで諜報活動を行う部局だが、NSAといえども盗聴するためには、裁判所の令状が必要。だが、大統領はwartime(戦時)との認識に立って、秘密裏にwarrantless surveillance(令状なしの監視活動)を承認した。
 中枢同時テロの翌月、米議会でPatriot Act(愛国者法)が成立。ブッシュ政権はDepartment of Homeland Security(国土安全保障省)を新設し、その下に諜報機関や捜査当局を統合、テロとの戦いのため、「国の安全は個人のプライバシーに優先する」と主張した。これに対し、無断盗聴は人権侵害であり憲法違反とする意見が、野党民主党だけでなく与党共和党内にも噴出。米自由人権協会(ACLU)などが2006年初めから、NSAの活動停止を求め連邦裁判所に提訴した。訴訟の対象は後に、盗聴に協力した電話会社にまで拡大された。
 米議会は、2008年に入って無断盗聴の〝既成事実〟を容認するとともに、〝お上〟の命令で協力してきた電話会社へ免責を与える条項を盛り込んだForeign Intelligence Surveillance Act(外国情報監視法)の改正案を提出。そして、7月9日には、“Senate Approves Bill to Broaden Wiretap Powers”(上院が米政府の盗聴力増強の法案に同意=ニューヨーク・タイムズ)。法案は翌10日、ブッシュ大統領が署名し成立した。この法律には、無制限に盗聴できる権限を政府に与えるというおまけが付いている。
“Our sovereignty may be dependent on our ability to eavesdrop on transmissions between our enemies on the outside and those on the inside with sympathies for them.”(われわれの主権は、外国の敵と彼らに同調する国内の敵との通信を盗聴するわれわれの能力にかかっている)と言ったのは、誰だかご存知であろうか?ブッシュ大統領の宿敵であり、2006年12月30日に絞首刑にされたサダム・フセイン元イラク大統領である。The Sankei Shimbun(July 16 2006)

PS:米国内外の電話やメールの盗聴は、オバマ政権に入ってからも継続されている。Walls have ears(壁に耳あり)ですよ。

2012年11月20日火曜日

Generation Y 米国の世代間格差・・・

lustrated by Kazuhiro Kawakita


  米国で第2次世界大戦後のベビーブームに生まれた世代をBaby Boomers (1946~64年)と呼び、その次の世代がGeneration X、つまり「X世代」(1965~76年)。さらにその次の世代をアルファベットの順に従ってGeneration Y という。カタカナ読みは「ジェネレイション・ワイ」。
「Y世代」の人は Generation Yer 、略してGen Yer(ジェン・ワイアー)。世代の期間については議論があるが、1977年から2000年までとして、20世紀最後の世代と位置づけるのが最も一般的。米国のY世代人口は7000万人を超えるという。
この世代の多くは、ベビーブーマーを親に持つEcho Boomersだ。コンピューターとインターネットが発達した時代に誕生したNet Generation (ネット世代)で、tech savvy (ハイテクに強い)。探究心や創造性に富む人も多く、IT関連企業などが、「会社の将来を担う存在」として注目する。
 米国で盛んなgenerational marketing (世代別マーケティング)からすると、Y世代の消費者はなかなか手ごわい。テレビでブランド名をPRするだけでは乗ってこない。物事にこだわりを持ち、ネットを使って自分で調べ、気に入ったものしか買わないからだ。もちろん、コンピューターは生活必需品。iPodなどデジタル音楽プレーヤーもこの世代に大当たりした。
 USA TODAY(2005年11月7日付)の特集記事 “Generation Y―They’ve Arrived at Work with a New Attitude”(Y世代の新人類が職場に入ってきた)によると、この世代の社員は現在30歳以下。smart (利口)でbrash(でしゃばり)。親世代がキャリア志向だったのに比べ、work-life balance(仕事と家庭生活の両立)を第1に考える。仕事は生活を楽しむためにするものと割り切って、気に入らなければ長居はしない。
 彼らにとって、2001年の9.11中枢同時テロが与えた精神的影響は大きい。“Life is short.”(人生は短い)と悟り、もっと人生を大切にしなければならないと考える。退職後の生活についても早くから予定を立て、用意周到に貯蓄を始めるという。もっとも、Y世代には、flip-flops (サンダル)履きで会社に出勤し、iPodを聞きながら仕事をする者もいると指摘される。こうした軽薄な態度が旧世代の社員との間にgeneration gapをもたらしているともいう。
 だが、かつてGeneration Xにも、ジーンズとTシャツで出社し、上司を困惑させた者もいた。「結婚する前に性交渉を持ち、親を尊敬せず、神を信じない」などと、旧世代から批判されたものだ。
“Each generation imagines itself to be more intelligent than the one that went before it and wiser than the one that comes after it.”(どの世代も前の世代より知的で、後の世代よりも賢明だと想像するものだ)とは、英作家ジョージ・オウエルの言葉である。The Sankei Simbun(July 2 2006)

dude 俺は男だ、という表現

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 dudeには「デュード」と「ドゥード」の2つの発音があるが、後者の方をよく耳にする。英和辞書には、「気取り屋」や「しゃれ者」、あるいは「野郎」「やつ」などと説明がつけられているが、dudeは日本語にない概念だ。
 日本でも人気を博したディズニー・アニメ「ファインディング・ニモ」(2003年)で、ニモの父親のマーリンが息子を探す旅の途中で気を失い、海亀のクラッシュがそれを見つけて呼びかける。“Dude. Dude. Focus, dude.” 字幕では「おい、兄ちゃん、しっかりしな」と訳されていた。dudeは「兄ちゃん」だ。クラッシュはその後も“Dude”を連発。マーリンも“Dude”で応じる。
 語源は、ドイツ語方言の「バカ」であるとか、「ぼろ布」や「案山子」との説もあり、ロクな意味ではない。19世紀の米国で生まれ、1877年にはランダムハウスの米俗語歴史辞書に登場。その後、英和辞書にあるような一種の都会的ダンディズムを表す単語として使われたが、1960~1970年代に、黒人の間で男性に対する呼びかけ語として流行。さらに、サーファーやdruggie(麻薬常用者)などサブカルチャーの中にも現れた。
 ピッツバーグ大学の言語学者、スコット・キースリング助教授の調査(2003年)によると、近年ヤングの間でdudeの使い方に大きな変化が生じているという。若者の言葉が年配の世代に不可解なのは日本と同じ。dudeは、年配者にはinarticulate(意味が不明瞭)とされているそうだ。
 若い男性の間で挨拶の際、“Dude”と呼びかけられれば、“Dude”と答える。つまり、一種の〝合言葉〟となっているのだ。こうした使い方は、ときに女性同士の間でも見られるが、男女間や、上司と部下といった上下関係の中ではほとんど現れない。そこには、camaraderie(友情)とcool solidarity (クールな友達関係)を表す目的があるという。そして後者には、masculine solidarity(男らしい関係)と strict heterosexuality(異性愛者)であることが求められる。つまり、dudeを使うことによって、gay(男性の同性愛者)ではないことを暗示しているわけだ。
 米国のcivil rights(公民権)運動のなかで、同性愛者の権利が獲得されていった。gayの恋愛映画「ブロークバック・マウンテン」(2005年)が大ヒットしたのも、社会的に受け入れられつつあることを示している。だが、同性愛でない人たちの間では、homophobia(同性愛への嫌悪と恐怖)は依然として根強い。とくに、自分が同性愛者と間違われないかという不安感を持つ若い男性にとって、dudeの呼びかけは「俺は同性愛じゃない」という含みがあり、男らしさを強調するものだ。
「ファインディング・ニモ」でマーリンは、ついに大海を泳ぎ切ってニモと再会を果たし、男らしい父親の姿を印象付けた。dudeは〝男の中の男〟である。The Sankei Shimbun(July 9 2006)

2012年11月18日日曜日

job spill 搾取工場て知っている?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 jobは「仕事」でspillは水などがあふれて「こぼれること」。時間外の仕事を指す俗語。カタカナ読みは「ジョブ・スピル」。“If your boss calls you on the weekend, that’s job spill. If you boot up your laptop after supper, that’s job spill.”(週末に上司が電話してきたら、それはジョブ・スピル。夕食後、仕事用のパソコンを立ち上げるのもジョブ・スピル)とウェブスター辞書の編集者は定義している。
 “Imagine job tasks seeping from the office to the home in much the same way as oil can invade a body of water or a beach.”(あたかも〝油の流出〟が水域全体や浜辺に広がっていくように、あふれる仕事が会社から家にじわじわ入ってくる)という意味合いで、ジャーナリストのジル・アンドレスキー・フレイザーさんが著書“White Collar Sweatshop”(2001年)の中で最初に使った。Sweatshopとは「搾取工場」で、現代企業はホワイトカラーが搾取される工場に変わりつつあると警告。job  spillについて、“It’s the dirty secret behind many a corporation’s bottom line.”(多くの企業の業績に隠れた汚い秘密だ)と指摘する。
 1990年代以降、パソコンやケータイなどのelectronic gizmos(電子機器)は、ビジネスにとってtime-saving(時間的節約)の有力な武器に成長。サラリーマンはどこにいても仕事ができる環境になったが、逆に言うと、どこにいても仕事をさせられるようになった。以前はアフター・ファイブの通勤電車で、一杯引っ掛けて新聞を読みながらくつろぐ姿が見られたが、今では車中で気ぜわしくケータイで得意先と連絡を取ったり、メールをチェックしたりする姿が当たり前になった。もちろん帰宅しても、パソコンの前に座る。
 昔、新聞記者は24時間勤務で、事件が起ればすぐに駆けつけろ、と言われたものだが、今やすべてのサラリーマンが昼夜を分かたず働くclockless worker(時間制限なしの労働者)に変わってきた。
 合理化とリストラによる人減らしで、レイオフや解雇が情け容赦なく行われ、職場を去った前任者の仕事がghost work(幽霊の仕事)として残りのスタッフの肩にのしかかってくる。仕事は増えることはあっても減ることはないのだ。
 だが、働いた分だけ給料をもらっているか、といえば、それらの仕事はoff-the-clock work(時間外の無給の仕事、つまりサービス残業)と見なされ、答えはNo。アメリカでも、仕事が忙しいためvacation deprivation(休暇返上)は日常茶飯事になっている。ワシントン・ポスト(2006年6月25日付)の記事によると、米国人の年間休暇は平均2週間で、少なくとも4日は返上。夏休みは約6割の人が、家を離れて4泊5日程度の旅行をするmicrovacation(ミニ休暇)を取るのが関の山。休暇中も4人に1人はパソコン持参で仕事をするという。The Sankei Shimbun(July 23 2006)

2012年11月17日土曜日

fuck Most men are only interested in fucking you!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 fuckは、カタカナ読みは「ファック」。おそらく500年くらいに渡って、公けに禁句とされた猥褻語である。本来の意味は「性交」で、名詞・動詞・形容詞(fucking)、間投詞にも使う。
米連邦最高裁判所がThe First and Fourteenth Amendments(憲法修正第1・14条=言論・出版の自由と公民的権利)の下に使用を〝解禁〟したのが1971年。有力新聞・雑誌など〝お堅い〟出版物の中には今なお、“f***”、“f-word”、“f-bomb”などと遠慮がちに記しているところもあるが、解禁の流れは止められない。映画やテレビ、さらに日常会話で、これほど多様な意味を込めて頻繁に使われる言葉はほかにない。
 アメリカン・ヘリテージ辞書によると、最初に使用されたのは西暦1500年より前。ラテン語と英語を混合した詩の中に見えるが、すでに当時から猥褻語として直接表記するのが憚られ、アルファベットを置き換えて暗号化して用いている。こうした表記法は最近まで続き、ヘミングウェイが「誰がために鐘は鳴る」(1940年)の第35章でfをmに置き換え、“muck”として使用。D.H.ロレンスは「チャタレイ夫人の恋人」(1928年)の中でこの語を連発したために猥褻文学の烙印を押され、英米両国で30年以上も発禁処分にされた。
 現在では、この言葉は性交以外の意味で使うことが多い。“I was fucked by ~.”(~にはめられた)。“I guess I am fucked.”(困ったことになった)。“He fucks up everything.”(めちゃくちゃにしやがる)。“Fuck off.”(うせろ)。“Fuck yourself.”(ちくしょう)などは、比較的意味が明瞭な使い方だ。怒りの感情や罵りを表す場合が多いが、喜怒哀楽のすべての感情表現に用いられる。俳優のマット・デイモンとベン・アフレックが脚本を書き、アカデミー脚本賞に輝いた映画「グッドウィル・ハンティング」(1997年)では、若者たちの会話の中で90回以上も登場している。
 fuckを口にするのは、大統領といえども例外ではない。イラク戦争1年前の2002年3月、ブッシュ大統領は上院議員3人に自分の考えを説明するなかで、“Fuck Saddam, We’re taking him out.”と述べたと、タイム誌が“F***”と伏せ字で伝えた。このフレーズは、改めて大統領の単純な性格を浮き彫りにするとともに、当時のサダム・フセイン・イラク大統領に対する深い敵意を示すものだ。
 また2004年6月、チェイニー副大統領が上院でパトリック・リーヒー議員(民主党)と議論した際には、相手を“Fuck yourself.”と罵倒した。
こうした罵倒がすぐに口を突いて出るのは、“Most men are the same. They are only interested in fucking you and they don’t care whether you’re happy or sad.”(たいていの男は同じよ。あなたと〝する〟ことばかり考えているのよ。あなたの気持ちなんて関係ないのよ)。女優のキャメロン・ディアスが言うとおりかもしれない。The Sankei Shimbun(July 30 2006)

2012年11月16日金曜日

Ape Diet 究極のダイエットって?

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 apeはゴリラやオランウータン、チンパンジーなどの類人猿。その食事がApe Diet。カタカナ読みは「エイプ・ダイエット」。健康のために野菜・果物・ナッツ類など、サルが喜びそうなものを食べようという「菜食主義的食事療法」のこと。生活習慣病の原因となる血中のコレステロール値を下げる効果があるとして、脚光を浴びている。
 Ape Dietの考案者は、カナダ・トロント大学の血管バイオロジー学者、デービッド・ジェンキンズ博士。高コレステロール血症の患者46人を対象にApe Dietの調査実験を行った。
 そのメニューの典型例を紹介すると、朝食はオート麦のシリアルやパン、豆乳、イチゴ。昼食は黒豆のスープ、オート麦のパンのサンドイッチ。挟んであるのは大豆製人造肉、トマトやレタス。夕食は豆腐ステーキにナス・タマネギ・ピーマンの煮込み。さらに、1日3回の間食はナッツや果物、豆乳。植物性のタンパク質とステロール、食物繊維が豊富だ。2003年の報告によれば、こうした食生活を4週間続けるとLDL(悪玉)コレステロール値が29%も下がり、抗コレステロール薬を用いた治療に匹敵する効果があるという。
 生活習慣病や肥満を招く食生活として、fat(脂質)の摂り過ぎが問題にされる。アメリカ生まれのハンバーガーやフライドチキン、さらにピザなどのfast foodは、脂肪分が多いだけでなく、transfat(トランス脂肪酸)など〝悪い脂質〟が使われているとヤリ玉に挙げられた。脂質の摂取を減らすためには、フライを控えるなどlow fat cooking(低脂肪料理)が長く奨励されてきた。
 ここ数年来の流行は、Atkins Diet(アトキンズ博士のダイエット)に代表されるlow-carbohydrate(低炭水化物)diet。パンや米など主食となる炭水化物を減らして、肉・野菜など副食を多めに摂る方法だ。理論的に炭水化物からのカロリー摂取量が減るために体内の脂質の代謝が進み、その分だけ減量できるという。また、良性の炭水化物と脂質を選んで摂るようにするSouth Beach Diet(サウスビーチ・ダイエット)も人気。両者とも、概して野菜や果物を多く摂るように勧めている。
 Ape Dietは、それらをさらに進めたものと言える。人類もゴリラやオランウータンの〝親戚〟であるから、彼らが常食するものは人間も食べられないわけがない、とジェンキンズ博士は確信しているようだ。菜食主義者もさらにエスカレートすると、「生(raw)」しか食べないrawistになる。こうなると、もうサルの食生活と変わらない。
では、“What is the ultimate diet?”(究極のダイエットは何?)
 “I recommend you Seafood Diet.”(シーフード・ダイエットというのはいかがでしょうか)
 “What is it?”(それはどんなの?)
 “You can just SEE food.” The Sankei Shimbun(August 6 2006)

2012年11月15日木曜日

Superman Clark Kent finally quits The Daily Planet.




Supermanは「スーパーマン」。20世紀アメリカン・コミックのsuperhero。ラジオ、テレビに登場し、その後も繰り返し映画化されている。1950年代には、日本でもTVドラマで人気を博した。
その言葉の由来は、ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェの著書「ツァラトゥストラはかく語りき」に登場する“Übermensch”(超人)を、1903年に英作家のバーナード・ショーがsupermanと英訳したのが、はじまり。
それがいつか、「空を見ろ」「鳥だ」「飛行機だ」「あっ、スーパーマンだ」になった。これは英語の原文では、“Look! Up in the sky!” “It's a bird!” “It's a plane!” “It's Superman!”である。
オリジナルはジェリー・シーゲル原作、ジョー・シャスター作画で、1作目がDCコミックス誌に登場したのは1938年。崩壊間際のクリプトン星から地球に逃れてきた赤ん坊のカル・エルが、ケント家に拾われてクラーク・ケントとして成長。架空都市メトロポリスで新聞記者として働きながら、スーパーマンとして活躍する。
“Faster than a speeding bullet! More powerful than a locomotive! Able to leap tall buildings at a single bound!”(弾よりも速く、力は機関車よりも強く、高いビルもひとっ飛び)は、最初のキャッチフレーズ。後には、宇宙を飛び回ったり、時間の流れを逆転させたり、核爆発に耐えて生き残ったりというように、パワーアップされる。
Supermanに見られる、正義を愛し、弱者に味方し、高潔で献身的、責任感が強いという「正義の味方」の人物像は、1940年代に確立された。世のため人のため、supervillain(超悪漢)と闘うために超人的能力を使う。
この性格は、その後のsuperheroに踏襲される。DCコミックスが39年に売り出したのがBatman。億万長者の実業家ブルース・ウェインは、スーパーマンほどの超人的能力はないが、架空都市ゴッサム・シティーのunderworldの悪漢と闘う。また、マーベル・コミックスに62年に登場したSpidermanや翌年デビューのX-Menも、映画やビデオゲームの世界で超人的能力を発揮する。子供向けコミックスが持つ「勧善懲悪」の道徳観は古今東西共通のものだが、米国でSupermanの行動基準となったのは、ボーイスカウトの規範であるという。それは、アメリカの伝統的な価値観と深く結びついており、今も国民の間に広く根付いている。米政府は、その辺の人情の機微をよく心得ていて、事を構えるときにはいつも敵をsupervillainに見立てて国民を扇動する。冷戦時代の旧ソ連は“Evil empire”(悪の帝国)だったし、イラクのサダム・フセイン元大統領は「中東のヒットラー」。イラクのほか米国に反抗するイラン、北朝鮮は“Axis of evil”(悪の枢軸)。そして、米国の役回りは、常に「正義の味方」のsuperheroなのだ。The sankei Shimbun(August 13 2006)

PS:2012年10月23日、Superman quits The Daily Planet – over the state of journalismと報じられた。クラーク・ケントは今のジャーナリズムがもはや正義を求める報道に値しないとしてデイリー・プラネット社を退社することになった。

2012年11月14日水曜日

chicken hawk 男はchickenと呼ばれたくない

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 chicken は「ニワトリ」でhawkは「タカ」。chicken hawkは「ニワトリのタカ」では何のことか分からないが、chickenには「臆病者」の意味がある。hawkはwar hawkで「軍事強硬派」。つまり「臆病者のタカ派」のことだ。
 chickenを「臆病者」の意味で使うのは、14世紀以前にさかのぼる。オックスフォード英語辞書(OED)によると、chicken-heart(ニワトリの心臓)は「怖がり」のことで、chicken-heartedと形容詞にもなった。20世紀半ばになると、米国でchicken gameが登場。2人のドライバーが車を運転して同一車線を真っ向から走ってくるゲームだ。そのままでは正面衝突。怖くなって先に車線を変更した方が負けで、chickenと揶揄される。「臆病な敗者」というわけ。負けず嫌いの米国の男に“Are you chicken? ”(怖気づいたか)などというと、それこそ大喧嘩になるから、要注意。
 そこで、chicken hawkとは、兵役を逃れた臆病者なのに、今では戦争を支持している者を意味し、「自分は戦争に行かないくせに、人を戦争に追いやる卑怯者だ」と、政敵を挑発する言葉として使われてきた。とくに民主党のdove(ハト派)が共和党の保守・強硬派を非難する常套語となった。
 1988年、先代のブッシュ氏が大統領に選ばれた際、副大統領になったダン・クエール(Dan Quayle)氏は、かつてベトナム戦争への召集を嫌い、家族のコネでインディアナの州兵に入隊したことを非難された。その時のジョークに、“What do you get when you combine a chicken with a hawk?”(chickenとhawkを掛け合わせると何になる?)、答えは、“A Quayle.”(同音異義語にquail=鳥の「ウズラ」)というのがあった。
 2000年の大統領選挙では、息子のブッシュ大統領とチェイニー副大統領がともにchicken hawkと批判されている。チェイニー氏は大学在籍と結婚を理由にベトナム戦争を回避、ブッシュ氏は同戦争中にテキサス州の空軍に着任して海外行きを免れた、というのがその理由。実際、2003年のイラク戦争以降、この2人は、民主党の戦争反対派から「偽善者」と非難された。
 だが、非難された側にも言い分がある。そもそも民主主義政治はシビリアン・コントロールが原則。戦時において、戦争に行ったことのない政治家をchicken hawkと罵るのは、軍人の優位を認め、この原則を否定することになりかねない。南北戦争時のリンカーン大統領、第一次大戦時のウィルソン大統領、そして第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルト大統領は、自身は戦争に行かなかった。では、みんなchicken hawkなのか?
 保守派のコラムニスト、ジェフ・ジャコビー氏は、2006年7月23日付のボストン・グローブで“Chicken hawk isn’t an argument. It is a slur.”(chicken hawkは〝議論の対象〟ではなく、単なる悪口だ)と批判している。The Sankei Shimbun(August 20 2006)

pet sitter ペットの世話は大変だね

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 pet sitterは、petの飼い主が家を留守にした場合に、代わりに面倒を見る人をいう。カタカナ読みは「ペット・シッター」で、babysitter(子守)の連想から生まれた言葉であろう。ペットの種類によって、dog sitterとかcat sitterとかいう。アメリカン・ヘリテージ辞書によると、babysitterの初出は1937年であるが、pet sitterは21世紀に入って随所で見かけるようになった。
 sitterは「座る人」の意味で、子守をする人が赤ちゃんのそばに座ったことからbabysitterというわけだが、petの場合は、そばに座っているだけでは仕事にならない。犬の場合、飼い主に代わって犬を散歩させる人をdog walkerと呼び、子供の小遣い稼ぎとしても人気がある。
 だが、猫に首輪をつけて散歩させるのは至難の業。cat walkerにはほとんどお目にかかれない。なお、catwalkといえば、ファッションショーで客席に突き出した細長い舞台のこと。モデルが猫足立ちで歩く所だ。
 cat sitterは、動詞にするとcat sit。プロが行うサービス内容は、indoor cat(室内で飼っている猫)の場合、1日2回のえさやりとlitter tray(砂のトイレ)の掃除。最近では生活習慣病にかかる猫も多く、糖尿病の場合にはインシュリンの投与も請け負う。
 ペットを日中に専用の施設で預かるのは、pet daycare。一方、日本にも出現したペット専用のホテルや宿泊所は、すでに20年以上前から営業。ここでも犬には散歩や運動のメニューがあるが、猫は宿泊とえさやりだけのcat boarding。ただ、grooming(毛の手入れ)は犬猫ともに主要サービスの一つで、ブラッシングからシャンプー、カット、シェービングなど人間並みに扱われるのは、日本にあるペットの美容室と変わりはない。
 アメリカの飼い犬の数は6000万匹以上、飼い猫はそれよりも多く7600万匹以上。アメリカ獣医学会(AVMA)の2001年の調査によると、35歳以下の一人暮らしの半数が、またルームメートのいる独身者の70%以上がペットを飼っているという。彼らは、ペットと過ごす幸福なひと時に癒しを求める。アメリカ人が1年間にペットに費やす金額は過去5年間で3割以上の伸びで、今や400億㌦市場に成長。animal loverは年々増加している。
 そこで、ペットを飼うためのアドバイス。
 “Don’t think your pet is a person in a fur coat.”(ペットを毛皮のコートを着た〝人〟と考えないこと)。“Don’t overcorrect your pet.”(過度にしつけようとしてはいけない)。かといって、“Don’t praise your dog unless he earns it.”(ちゃんと命令通りにできなけば褒めてはいけない)。要するに、“Do get down on the floor and communicate on an animal’s level.”(こちらが床にかがんで、動物のレベルで付き合うこと)。以上、“Words of Wisdom”(1989年)から。The Sankei Shimbun(September 3 2006)

2012年11月13日火曜日

stunt 映画だけではない。political stuntも・・・

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 stuntは映画のスタントマンの「スタント」に当たり、「離れ業」「妙技」を意味する名詞。子供たちの間でよく「こんなことできるかい?」といって、とんぼ返りをやったりする。あれがstunt。自分の力や技を他人に見せつけて挑発する意味合いがある。語源は分らないが、アメリカを肌で実感することができる言葉であろう。
 映画のstuntに戻ると、俳優の身代わりになって肉体的に困難な業や危険をともなう行為をするstunt doubleは、アクション映画の撮影に欠かせない。ハリウッドでは、悪魔の島から脱獄する「パピヨン」(1973年)で主役のスティーブ・マックイーンの代わりに断崖から海に飛び込むシーンを撮ったのが、最初の大掛かりなstuntであるという。
 stuntをする男性はstuntmanであり、女性はstuntwomanだが、最近はgender sensitive(性差別に敏感)な世の中なので、stunt performerというのがよいだろう。もっとも、ジャッキー・チェンのようにstunt performerを使わず、自分でstuntを演じることにこだわるアクション俳優もいる。“A lot of people ask me when I do a stunt, are you scared? Of course I’m scared. I’m not Superman.”(多くの人が俺にスタントをするとき怖くないかと尋ねるが、もちろん怖いさ。俺はスーパーマンじゃないからね)と彼は語っているが、最近のハリウッドはComputer Generated Imagery(CGI)が大流行だけに、彼でさえstuntの機会は減ったという。
 さて、まったく衰えを知らないのはpolitical stunt(政治的人気取り)。米国で政治はdog-and-pony show(サーカス)だと言われ、メディアが発達するに従って、年々その傾向は強まっている。サーカスにstuntは付きものだが、米国政治もstuntなくして語れない。
たとえば、2006年7月末にイラク北部に住むクルドの役人が訪米し、サンフランシスコなどで「サダム・フセイン(元イラク大統領)を倒してくれてありがとう」というキャンペーンを展開した。その模様はコマーシャルとして全米でテレビ放映されたが、クルドの子供たちが星条旗の小旗を振り、「アメリカよ、ありがとう」「民主主義をありがとう」と歓声を上げていた。実は、これには共和党関係のPR会社が関わっていたという。
 political stuntは、選挙の年にはさらに激しさを増す。ニューヨーク・タイムズ(6月9日付)の社説は、“election-year stunt”という言葉を使ったが、2012年の大統領選挙前も嫌と言うほどとpolitical stuntを見せつけられ、有権者はあきれたろう。
 第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトは、有権者をこう戒めている。“In politics, nothing happens by accident. If it happens, you can bet it was planned that way.”(政治上の出来事は何1つ偶然ではない。もし、何かが起れば、それは必ず仕組まれたものと考えられる)The Sankei Shimbun(september 3 2006)

savvy この言葉を知らずにいられない・・・

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 “Savvy?”と訊かれたら“Savvy.”と答える。これが流行の表現。savvyは、ここでは「理解する」という意味の動詞。つまり、「分かったか?」と訊かれて「分かった」と答えたわけだ。発音は「サヴィ」で「サ」にアクセントを置く。オックスフォード英語辞書(OED)によると、1785年に西インド諸島のpidgin English(混成英語)として登場。フランス語の“Savez vous?”、あるいはスペイン語の“Sabe (usted)?”(いずれも“Do you know?”の意味)に由来するという。
 西インド諸島海域を舞台にした海賊映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」(第1作=2003年)で、ジョニー・デップ扮するジャック・スパロウ船長がしばしば“Savvy?”というので、ついに子供たちまで真似するようになった。
 「分かったか?」という意味の表現は、英語では“Do you understand?”か、もっとくだけて“Get it?”というのが日常会話での普通の言い方。なかには”Do I make myself clear?”などという嫌味たらしい表現もある。SF映画「マトリックス」(1999年)で、キアヌ・リーブス扮するコンピューター技師のアンダーソン氏が会社に遅刻した際、上司が叱責して、そう付け加えた。「私の言うことが分かるかね?」
 さて、savvyは形容詞、名詞としても使われる。この場合の意味は少し違って、実際的な知識があるとか、物事に精通していることを指す。street wise(世知にたける)という言い方にも通じる。
 「賢い消費者」を英訳すると、savvy consumer。米国銀行協会の消費者調査によると、銀行の各種手数料が高すぎるとヤリ玉に挙がるなかで、savvy consumersは「手数料が掛からないように遣り繰りしている」と指摘。手数料回避のためのknow howはsavvyというわけ。また、皆が損をしているときでもちゃっかり儲ける「賢い投資家」はsavvy investor。安い飛行機やホテルなどを探して計画する「賢い旅行」はsavvy travelという。
 情報化社会では、tech-savvy(ハイテク通)がキーワード。USA TODAY(2006年8月16日付)の記事“Colleges Adapt to Tech-savvy New Students”(ハイテク通の新入生に対応を迫られる大学)によると、最近の新入生はノートパソコンやPDAも自由に使いこなすので、学校側も講義の録音をデジタル・ファイルにしてダウンロードできるサービスを提供、学生は時間があるときにiPodで講義を聴くという具合だ。
 ABCニュース(同年8月11日付)によると、ホームレスの人たちでさえtech-savvyになることで、インターネットを通じて職探しやチャットをするなど「世間とのコンタクト」を取って生き残れるという。ゴミ箱に食べ残しを漁るだけでなく、捨てられたパソコンの部品を拾って自分で組み立てて使うホームレスも登場し始めた、とレポートしている。まさに「知は力なり」。“Savvy?”The Sankei Shimbun(September 17 2006)

2012年11月12日月曜日

retro running 後方に走るランニング

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 retroは「レトロ」であるが、「復古調」ではなく「後方」という意味。runningは「走ること」だから、retro runningは「後方へ走ること」。カタカナ読みは「レトロ・ランニング」。別の表現ではbackward running。
 runningは、広い意味でjogging(軽い駆け足)からsprint(全力疾走)まで含む。後ろ向きに速く走るのは至難の業なので、一般的にはjogging程度の速度。だが、練習次第でスピードアップできる。ちなみに、米国で著名なbackward runnerのティモシー・〝バッド〟・バディーナ氏は、2001年に200㍍走で32.78秒のギネス記録を打ち立てた。また、後ろ向きにマラソンを走るスゴイ人もおり、さまざまな距離で世界大会もある。
 ところで、この運動自体は新しいものではない。一説には、1970年代からランニングの選手がhamstring(膝の後ろの腱)を痛めた際などに、補完的なトレーニングとしてやっていたという。今日では、アスリートのウォーミングアップや練習メニューに広く取り入れられている。また、retro runningは、普通に前方へ走る場合とは筋肉の働きや関節の可動範囲が異なる。しかも、前方へ走るより20%よけいにカロリーを消費するというので、フィットネスクラブなどがaerobic exercise(有酸素運動)の1つとして採用、ランニングマシンで手軽に行えるので、愛好者が増えている。
 オレゴン大学の生体力学・スポーツ医学研究所では、長年にわたってretro runningを研究。リーダーの同大名誉教授バリー・ベイツ博士によると、体の平衡感覚やmuscle balance(筋肉バランス)を向上させ、転倒事故の防止などにつながるという。さらに、hip joint(股関節)やknee joint(膝関節)の障害、ankle sprain(足首の捻挫)など、下肢のケガの回復や手術後のリハビリテーションにも有効。ミシガン州の理学療法士ゲイリー・グレイ氏はリハビリ向けretro running の草分け的存在。「足腰だけでなく心肺機能も強化される」として、30年以上前から患者に指導を続けている。
 もっとも、retro runningは、他の運動よりも多少危険がともなう。人間は残念ながら後ろに目がついていないので、外でretro runningするときに、後方から車が来ないか、人がいないか、マンホールの蓋が開けっ放しになっていないか、などと気が気ではない。後ろを振り返りながら身体のバランスを保つのも一苦労である。だから、ランニングの指導者は、まずretro walkingから始めて後ろ向きの動きに体をならし、「よく知っている道で、障害物がないことを確認したうえでretro runすべきだ」とアドバイスしている。
 さて、最後に1つ。retro running shoesとあるときは、「復古調のランニング・シューズ」と理解するのが一般的だが、将来は「retro running専用のシューズ」との解釈が生まれるかもしれない。The Sankei Simbun(October 8 2006)

2012年11月11日日曜日

bad day ついてない日って、あるよね。

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 bad dayはgood dayに対する語。米国では人と別れるときなどに、“Have a good day!”と声をかける。あなたにとって「よい日でありますように」という意味。bad dayは「悪い日」だが、すべての人にとって悪い日というのはないから、ある人にとってのunlucky day(ついてない日)である。
“A bad day fishing is better than a good day working.”(釣りに行って何も釣れない厄日でも、バリバリ働く好調な日よりもましだ)ということわざがある。人によって意見の分かれるところだが、bad dayのニュアンスはまさにこれ。
 bad dayには先駆けの語として1990年代に流行ったbad hair dayがある。“You have a bad hair day.”というと「今日は髪がクシャクシャじゃないか」という意味から転じて「すべてがうまく行かない日」になった。
さて、2006年に欧米、日本でも大ヒットしたのが“Bad Day”。カナダ生まれのミュージシャン、ダニエル・パウターのポップソングだ。日本では「ついてない日の応援歌」という副題がつけられている。何もかもうまくいかなくて落ち込んでいる友人を“You had a bad day”(ついてなかっただけさ)と励ます内容で、「この曲を聴いていると元気が出てくる」というのが圧倒的なファン評。米国では2006年、Billboard Hot 100をはじめヒット・チャートの一位を軒並み独占、テレビやラジオでこの曲が流れない日はなかった。
“Sometimes the system goes on the blink/ And the whole things turns out wrong/ You might not make it back and you know/ That you could be well oh that strong/ And I’m not wrong”
 systemは、多くのものが組み合わさってできた体系が原義で、ここではthe systemで世間とか世の中の意味。
「時には、世の中うまくいかないこともあるさ。何もかも裏目に出る事だって。挽回できないかもしれないけれど、強気を出せばうまくやれる、と君は分かっているじゃないか。僕の言う事は間違っちゃいないさ」
 Bad Dayは、プロ・スポーツの試合でチームが敗退するたびに競技場で流される定番の曲にもなった。
 米国人の生き方は、常にpositive(前向き)が尊ばれ、逆境に陥った時にnegative(後ろ向き)になる人間はunderdog(負け犬)として軽蔑される。厳しい競争社会を生き残るためには、自力でbad dayをgood dayに変える強い精神力が求められるのだ。
 米プロバスケットボール協会(NBA)の元スーパースターで、1991年にHIVの感染を告白して大きな話題を呼んだマジック・ジョンソン氏は、実業家として活躍する現在の心境をこう語る。「私はビジネスマンであることが好きだ。働くことが好きなんだ。I never have a bad day.(私には決して“ついてない日”などない)」。The Sankei Shimbun (October 1 2006)

 

2012年11月8日木曜日

leak A small leak can sink a great ship!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 leakは「漏れる」「漏らす」、または名詞で「漏洩」。カタカナ読みは「リーク」。ここでは、漏れるのは情報でnews leak(ニュース漏洩)。新聞記者からすればscoop(すっぱ抜き)となるが、抜かれた側では、「漏らしたのは誰だ」と大騒ぎになる。
 イラク戦争後、ブッシュ政権を揺るがしたのが、“Plame affair”(プレイム事件)。またの名を“CIA leak case”(CIA工作員実名漏洩事件)。ブッシュ政権は2003年3月19日、大量破壊兵器の存在を理由にイラクに侵攻したが、結局大量破壊兵器は発見されなかった。事前調査を担当したジョセフ・ウィルソン元駐ガボン大使は、同年7月6日付のニューヨーク・タイムズに寄稿、イラクの核開発に関する報告が歪曲されたと世論に訴えた。ホワイトハウスの面子は丸潰れ。その後、7月14日に政治評論家のロバート・ノバック氏が書いたコラムに、ウィルソン氏の妻バレリー・プレイムさんがCIA(中央情報局)の工作員であり、その縁故でウィルソン氏は調査を担当したと暴露された。これは情報部員の身分を保護する法律に違反する。情報提供者としてアーミテージ前国務副長官、大統領のカール・ローブ次席補佐官、ルイス・リビー副大統領首席補佐官らブッシュ政権高官の名前が浮上。特別検察官が置かれて捜査の結果、2007年3月にリビー氏が偽証罪などで起訴され、罰金25万㌦と禁固2年6カ月の実刑判決を受けた。
 ところで、leakする人はsecret source(秘密の情報源)。取材源の秘匿はジャーナリストの基本的モラルであり、それが表面に現れることはまれ。その最大の例外が、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件(1972年)で、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者に情報を提供した“Deep Throat”。30年以上に渡って身元が秘匿されが、事件当時FBI(連邦捜査局)の副長官だったマーク・フェルト氏が2005年5月に、“I’m the guy they used to call Deep Throat.”と名乗り出た。世紀のスクープ記事の情報源が明らかになり、世間は再び驚かされた。
 だが、leakが不注意による場合もある。第二次大戦中の「メイ事件」は、米国では悪名高い。1943年、米議会下院の軍事委員会メンバーのアンドリュー・メイ議員は、太平洋艦隊を視察した後、「日本軍の対潜用爆雷は非常に浅いところで爆発するので、米海軍の潜水艦は攻撃を免れている」と記者会見で発言。通信各社がこれを打電し、多くの新聞がニュースとして報じた。日本軍が早速、起爆深度を変更したのは言うまでもない。米潜水艦部隊の司令官、チャールズ・ロックウッド海軍中将は、その結果、潜水艦10隻と乗員800人が犠牲になったと推定。当時のルーズベルト政権は、メイ議員の暴露にカンカンになった。
“A small leak can sink a great ship.”(小さなleakが大船を沈める)と言ったのは、建国の父、ベンジャミン・フランクリン。まさに至言である。The Saneki Simbun(October 15 2006)

2012年11月7日水曜日

househusband 家庭を守る夫は平和の象徴だ

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 houseは「家」でhusbandは「夫」。housewife(家庭の主婦)が伝統的に行ってきた家事・育児を専業にする夫を指すのがhousehusband。カタカナ読みは「ハウスハズバンド」で、日本語では「主夫」。アメリカでは20世紀の後半から急増し、今では珍しくない。
 ウーマンリブの活動家らは、housewifeが性差別を助長する言葉だと糾弾し、それに代わってhomemakerという言葉を採用した。男女を問わず家事をする者という中立的な言葉で、英和辞書には「家政担当者」の訳が載っている。political correctness(差別廃止を訴える政治的正当性、 ㌻)からすると、househusbandも「差別用語」である。
 househusbandは、嘲笑や自嘲をともなって使われることが多い。Wordreference Forumsというネットの意見交換では、「unemployed(失業)のことだ」という指摘があった。つまり、失業した夫の代わりに妻が働きに出て、結果的に夫が家事・育児を引き受けることになる、というわけだ。これは、一面の真理である。
 米国では共働き夫婦において、妻の方が夫よりも昇進し高給を取るケースが少なくない。長期出張や単身赴任など第一線で妻が活躍するには、夫の理解と援助が必要。househusbandはその1つの表れだ。家事に対しても若い世代では、女性の仕事だという伝統的な考えが薄れてきている。最近は、日本でも子供の教育を女房に任せきりにせず、自ら買って出る男性が増えているが、この傾向は米国が先行している。
 CNNのキャシー・スロボギン記者は、“For a working mother, it’s a fantasy.”(働く母親には夢だ)と語っている。職場から帰宅すると、家の中は掃除が行き届き、洗濯も終わって、台所には暖かい夕食が用意されている。子供の宿題もすでに完了しているから、小言をいう必要もない…。
元新聞記者のアド・ハドラー氏は、妻が昇進したため主夫になった経験をもとに、小説“Househusband”(2004年)を出版。家事の楽しさを描いて、一躍人気作家となった。CNNのインタビューに対して、“My job is the toughest I’ve ever done.”(仕事は今までで一番大変)というのが主夫の感想。だが、よい面もある。“I don’t carry the stress with me every day of earning the money that keeps the family going.”(家庭生活を維持するために毎日カネを稼がねばならないストレスから解放される)ということ。
もっとも、“Sometimes I forget I’m a man. And she forgets she’s a woman. And we’ll be laying in the bed and looking at each other and go, ‘Oh yeah.’”(時に私は自分が男であることを忘れ、妻は自分が女であることを忘れている。ベッドに横になり、見つめ合って初めて『ああ、そうなんだ』と思う)と告白している。The Sankei Shimbun(September 24 2006)

2012年11月5日月曜日

ticket Obama defeats Romney!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 ticketは日本語でも「チケット」、一般的には切符や入場券のこと。だが、政治用語では選挙における政党の公認候補者、とくに1組になって立候補する者を指す。勝てると予想される候補の組み合わせがdream ticket。
 米大統領選挙では、大統領と副大統領は一緒に選ばれるので、今回の民主党はthe Obama-Biden ticket(オバマ大統領とバイデン副大統領の組み合わせ)。
 共和党についてワシントン・ポスト(10月20日付)は、“The Romney-Ryan ticket is the first Republican presidential campaign in history without a Protestant candidate.”(ロムニー大統領候補とライアン副大統領候補の組み合わせは、共和党史上初のプロテスタント候補のいない大統領選挙戦である)と報じた。
 ロムニー氏はモルモン教徒で、ライアン氏はカトリック教徒。米国の支配層とされてきたWASP (White Anglo-Saxon Protestant =アングロサクソン系白人新教徒)から大統領候補の組み合わせを選ぶという暗黙の了解の伝統は、保守派においても宗教の側面から崩れてしまった。保守派の大票田であるevangelicals(福音主義者)が、果たして彼らに投票するかが焦点の1つとなった。
 ところで、ウイリアム・サファイアの政治辞典によると、ticketはballot(投票用紙)の意味がある。政治においてto have the tickets(チケットをもっている)は、「勝つだけの票がある」という意味。さて、今回の選挙、the Obama-Biden  ticketがthe ticketsを確保、オバマ大統領が再選を果たした。






quackery 自分の欲望に負けてだまされる

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 quackeryは、英和辞書を見ると「いんちき療法」。カタカナ読みは「クワッカリー」。その元になった語はquack。アヒルの鳴き声を表す擬音で、動詞として使うと「クワッ(ク)、クワッ(ク)」と鳴く、という意味。これが名詞になると「にせ医者」「いかさま師」となる。その語源は16世紀のオランダ語のkwaksalver。「salve(膏薬)の行商人」という意味で、アヒルのように声高に膏薬の効能を唱えたが、ちっとも効き目がなかったから、「にせ医者」と蔑まれることになったのだろう。
 quackeryは厳密にいうと、医学的に治療できる根拠がない療法や薬のことで、効能を誇張した詐欺まがいの薬なども含まれ、米国では1916年にPure Food and Drug Act(食品医薬品・品質法)が成立するまで野放しだった。17、18世紀には、何にでも効くDuffy’s Elixir(ダフィーの万能薬)などが英国から輸入され大評判になった。そもそも何にでも効く薬などあるはずないが、その時代の人は素直に信じて騙された。そのなごりで、当時、万能薬として喧伝されたsnake oilは、今も「いんちき薬」の代名詞として使う。
 さて現在では、quackeryはalternative medicine(民間療法)や健康食品の分野に紛れ込んで蔓延している。いわくmiracle cures(奇跡の治癒)、psychic surgery(心霊手術)、faith healing(信じれば治る)など。また、インターネットや雑誌の広告では、女性向けにweight-loss(減量)が、男性向けにはpenis-enlargement(ペニス増大)が、それぞれいんちき商品を売りつけるための格好のテーマとなっている。とくに流行のダイエット関連の健康食品では、危険な薬剤として米食品医薬品局(FDA)が使用を禁じているものも売られていて、死亡被害まで出ている。
 そこで、quackeryを監視するために設立されたNPOの老舗が、Quackwatch。1997年からはウェブサイトも運営しており、問題のある療法や健康食品などを調査し、結果を公表するとともに、被害に遭わないように注意を呼びかけている。
 だが、quackeryの被害は後を絶たない。最近は、科学技術の急速な進歩で、「新しく開発された療法」と言われると、よほどの専門家でない限り判断がつきかねて、だまされるケースが多い。science(科学)にもとづくという謳い文句も、うっかり信用できない。科学に名を借りただけのpseudo-science(似非科学)が横行しているのだ。
 似非科学の特徴は、科学的な根拠を示さず、証明もなしに超常現象や神秘的な理論を説くところにある。とくに、~energy(~エネルギー)には要注意。いわく“psycho-spiritual energy”(心霊的エネルギー?)とか、“biocosmic energy”(生物宇宙エネルギー?)とか。“Science cannot explain.”(科学では説明できない)などと効能が説明してある場合は、似非科学に間違いなく、眉につばを付けてかからなくてはいけない。The Sankei Shimbun(October 22 2006)

2012年11月4日日曜日

news fast ニュースの断食

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 newsは「ニュース」。fastは形容詞では「速い」という意味だが、ここでは名詞で「断食」「絶食」のこと。「断食を中止する」というbreakfastが転じて「朝食」となったが、そのfast。そこで、news fastは「ニュースの断食」。カタカナ読みは「ニューズ・ファスト」。テレビ、ラジオのスイッチを切り、新聞も読まない。インターネットでニュースのチェックもしない。一切のニュースを遮断して、疲れ切った脳細胞を休めようというものだ。
 この言葉は、information revolution(情報革命)が本格的になった1990年代から登場した。世界中で過去30年間に発信されたニュース、情報の量は、それ以前に人類が蓄積した5000年分を越えてしまい、幾何級数的に増加しているという。そのため、最近では健康面からも情報過多の環境が問題視されるようになった。
健康的ライフスタイルの提唱者として有名なアンドリュー・ワイル博士は、ベストセラーの著書“8 Weeks to Optimum Health” (2006年改訂版、邦題『心身自在』)で、 “Unfortunately, most of the reported news is bad news. The emotional content of TV news can affect mood and aggravate sadness and depression.”(不幸にして報道されるニュースは総じて悪いニュース。TVニュースの内容は、われわれの気持ちに悪影響を与え憂鬱にさせる)と指摘。健全な精神を保つためには、ニュースからのday off(休日)を取ることを勧める。
 だが、これがなかなかできない。とくにニュースを商売のネタにする新聞記者は、ほとんどがnews addiction(ニュース中毒)に陥ったnews junkie(中毒患者)。半日もニュースを見ないと、何か起こっていないか知りたくてムズムズしてくる。さらにnews fastが続くと、心配になって寝られなくなる。〝ほとんどビョーキ〟だが、この傾向は実際にInformation Fatigue Syndrome(IFS=情報疲労症候群)と呼ばれているのだ。
 IFSは、英国の心理学者、デイビッド・ルイス博士が1996年、ロイター通信社の“Dying for Information”(情報飢餓)と題する報告書をまとめたときに初めて使った。過剰な情報に曝され、その処理に追われて疲れ果てる。その結果、「分析能力は麻痺してしまう。だが、情報に対する飢餓感はなくならず、不安感や不眠症に悩まされるようになる」という。
 IFSに対する処方箋もinformation fast(情報断食)。technostress(テクノストレス)を軽減するため、コンピューターのスイッチを切って、奔流のように押し寄せる情報の波から一時的にでも避難し休息をとることが必要だ。コンピューター・ソフトウェアの巨人、マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏も、パソコンから離れて思索にふける“think week”(考える週)を設け、information fastしているそうだ。The Sankei Simbun(October 29 2006)

2012年11月3日土曜日

adopted child 子供が大好き!

Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 adopted childは「養子」。カタカナ読みは「アドプティッド・チャイルド」。動詞のadoptは、英和辞書では「採用する」「採択する」の意味が最初に書いてある。たとえば、議会で決議を採択するのは、adopt a resolution。だが、アメリカン・ヘリテージ辞書など米国の辞書では、“take into one’s family through legal means”(正式な方法=養子縁組で家族にする)が最初に来る。こちらの意味の方が身近なためだ。「養子縁組」という名詞はadoption。「養親」はadoptive parentsだ。
2006年には、人気歌手マドンナがアフリカ南部のマラウイから黒人の男児を養子として迎え、世界的な話題になったが、米国ではこのようなcelebrity adoption(有名人の養子縁組)が盛んだ。映画俳優では、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットのカップル。また、日米関係で著名なリチャード・アーミテージ元国務副長官も6人の養子を迎えている。
 移民同士の混血が進む米国では、血筋にこだわりを持たない人が多く、養子を持つ家庭は8軒に1軒。さらに、毎年約12万人が養子縁組されるという。そのうち海外から子供をもらう国際養子縁組は、2005年に約2万3000人。国別では中国がトップで、以下ロシア、グアテマラ、韓国と続く。
 子供を養子に出す側としては、経済的理由が大きい。最近ではシングルマザーで養育できないケースが増えている。国際養子縁組の場合、貧困にあえぐ国々では、子供を養子に出すことが「口減らし」になるという現実がある。
 養子を取る最大の理由は、夫婦間の不妊。だが、実子がいる場合でも、養子縁組するケースが少なくない。そのなかには、宗教的な使命感や博愛主義の立場から孤児や障害児を養育する人がかなりいる。また、家族は多いほうがいい、と考える人もいて、理由は様々。養子をもらった世帯には1万ドルの税額控除があり、州によっては同性カップルの養子縁組も可能だ。
 これだけ養子縁組が盛んな米国だが、養子に対する「告知」という大問題は避けて通れない。“You were adopted.”(お前はもらわれてきた子だ)とは、簡単に言えることではない。青少年心理の専門家は、子供たちが養子とは何かを理解できるようになったときに、養親が直接告白するのが最もよい、と指摘している。
 告知の際の言葉使いは微妙である。real mother、father、parents(本当の母、父、親)という言い方は好ましくない。養親はfalse(にせもの)という印象を与えるからだ。そこでbirth mother(生みの母)、biological parents(生物学上の親)などの表現を使うべきだとしている。また、養子に行った子供と生みの親との「再会」をreunion(動詞はreunite)と呼ぶが、子供だけでなく生みの親にも育ての親にも心理的葛藤をもたらす難しい問題である。The Sankei Shimbun (November 5 2006)