2012年6月9日土曜日

waterboarding


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 waterboardingのカタカナ読み「ウォーターボーディング」。元の形はwaterboard。surfboard(サーフボード)やsnowboard(スノーボード)などと似ているから、何かスポーツを連想しそうだが、共通点はboard(板)を使うことだけ。実は、CIA(米中央情報局)が過去数十年に渡って用いてきたprofessional interrogation technique(プロの尋問方法)の1つだ。
 その方法とは、まずboardに尋問する容疑者を仰向けに縛りつける。足の方が上がり、頭が下がるように固定。尋問者は、容疑者の鼻と口を布で覆うか、顔をセロファンで包んで、その上に繰り返し水をかける。容疑者は溺れ死ぬような感覚に襲われ、咽頭反射で窒息状態になり、パニックに陥って白状するという。waterboardingで実際に溺れ死ぬことはないとされ、外傷は残らない。だが、肺が破壊されたり、低酸素脳症になったりして、死に至ることもある。日本語に訳すと「板縛り水責め」といったところだが、waterboardingの字面からは容易にその方法を知り得ず、weasel word(イタチ言葉)の典型である。
 2001年の9.11中枢同時テロ以降、CIAは“Extraordinary Rendition”(特殊工作?)というプログラムを強化。テロの容疑者を拉致し、世界各地の秘密の収容所に移送したとされるが、warterboardingなどによる尋問は、そこで行われたという。ワシントン・ポスト(2007年12月9日付)によると、9.11を計画したとされるカリド・シーク・モハメドら、国際テロ組織アルカーイダの幹部の尋問にも使われたという。ところが、2007年12月に、CIAが尋問の際に撮影したビデオを勝手に廃棄していたことが明るみに出た。拷問による違法尋問の発覚を避けるために証拠隠滅を図った疑いが浮上。政治問題化するに至った。
米議会では、戦争捕虜への拷問を禁止したジュネーブ条約に違反する疑いのある行為だと批判が高まった。これに対してブッシュ政権は、テロリストを戦争捕虜とは認めず、waterboardingは拷問ではない、との論陣を張った。テロリストから情報を引き出すためには、人道主義的な取り扱いは無用で、厳しい〝尋問方法〟が必要だと主張したのだ。
 ところで、CIAの〝プロの尋問方法〟には、このほかattention grab(胸元をつかんで揺する)、attention slap(顔などを平手打ちする)、belly slap(腹を平手打ちする)、long time standing(手足を拘束したまま40時間以上にわたって立たせる)、cold cell(裸にしたまま寒い独房に立たせ、冷水を浴びせる)の5種類があるという。だが、CIAの工作員にwaterboarding を試したところ、平均14秒で降参したといい、最も〝有効〟な尋問方法と見なされている。
 waterboarding は、米国のスパイ活動の一端を垣間見ることができるのである。(January 20 2008)「グローバル・English」はこちらへ

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