2012年4月12日木曜日

dumb down


Illustrated by Kazuhiro Kawakita


 dumbは、本来は「口がきけない」という形容詞だが、米語では「愚鈍な」「バカな」という意味。これを動詞にしてdownを付けるとdumb down。カタカナ読みで「ダム・ダウン」。文字通りでは「バカでも分かるようにする」だが、必ずしも悪い意味で使われるわけではない。別の言い方はsimplify(単純化する、平易にする)。たとえば、複雑で難しい話題の場合に「分かりやすく説明してよ」と言うのは“Dumb it down for me.”
 dumbの派生語の一つがdummy(バカ)。コンピュータ関連の解説書シリーズ“For Dummies books”(ダミーのための本)はベストセラー。ハイテク用語だらけのマニュアルについて、dumb down the instructions(指示内容を誰にでも分かるように説明する)というのが売り物だ。
 米国の教育、文化、メディアの歴史は、大衆化のための“dumbing down”の歴史でもある。その理由をダム・ダウンすると、「難しいものはダメ」ということ。ヒップ・ホップの世界でさえそうだ。偉大なラッパーのジェイ・Zはいう。“I dumb down for my audience and double my dollars.”(ファンのためにダム・ダウンしたら、おれの稼ぎは倍になる)。「ブルックリンのドヤに生まれ、ガキのころに親父に捨てられ、ドラッグやってムショ暮らし、だがおれにはラップがあったぜ」というわけで、1990年代後半からメキメキ頭角を現し、ブームに乗って一気に頂点に。フォーブス誌によると、2006年の所得は3400万㌦でラッパーのトップ。
 さて、dumb downには、over-simplification(単純化し過ぎ)のマイナス面がつきまとう。たとえば、数学教育において円周率πは3.14159…であるが、dumb downπto be 3(πを3に単純化)すれば、計算は楽にできるだろうが、円周率の本来の意味は理解されないとの批判が出てきた。マスメディアは、大衆受けを狙ってdumb down news for sensationalism(センセーショナリズムのためにニュースを〝面白可笑しく〟する)が、事実が歪曲されて正しく伝えられない危険性がある。インターネット上では、YouTube、MySpace、Wikipedia、そしてブログなど大衆化が一挙に進み、プロや専門家は素人に圧倒され、“the cult of the amateur”(アマチュア信仰)まで各業界に生まれた。だが、“Is the Internet dumbing us down?”(インターネットがわれわれをバカに変えるのか?)との反発があるのも、無視できない。
 そこで登場したのがdumb up。難しくてもいい、文化的、知的レベルを引き上げろ、という意味。“Time to dumb up!”(レベル・アップの時だ)との声が上がる一方、〝改革には痛みをともなう〟と尻込みするのが大勢のようだ。
われわれメディアも、決断の淵に立たされている。“To dumb down or to dumb up, that is the question.”(レベルを下げるべきか、上げるべきか、それが問題だ)
The Sankei Shimbun (May 11 2008)

2 件のコメント:

  1. どんたこす2014年11月2日 13:30

    アメリカのみならず先進国の直面している問題の一つを"Dumb down"という切り口で解釈されました。大変興味深かったです。

    返信削除
  2. dumbing_down TVプログラムで、視聴者の受け狙いばかりする低俗な放送番組との見解を聞いたことがあります。

    返信削除