2012年3月4日日曜日

comfort capsule


Illustrated by Kazuhiro Kawakita

 comfortは「慰める」「励ます」という動詞で、名詞形は「慰安」。capsuleは一般的には「カプセル」だが、ここでは航空機、とくに軍用機の“sealed cabin”(密閉されたキャビン)を指す。comfort capsuleは、「慰安用のキャビン」。カタカナ読みは「カンフォート・キャプスル」。
 ワシントンポスト(2008年7月18日付)は、“Terrorism Funds May Let Brass Fly in Style”(テロ対策予算で幹部はぜいたく飛行か)という見出しで、「米空軍が1600万㌦(約17億円)の対テロ資金を使って、軍用機にcomfort capsuleを装備」と報じた。ここでbrassは“top brass”(高級将校)の略。では、何がin style(ぜいたく)なのか?
製造が始まったキャビンの第1号は2部屋からなり、ベッドやソファ、テーブル、ステレオスピーカー付き37インチ大画面モニター、等身大の鏡が備わる。さらに回転式のシートは、民間航空機のファーストクラス並みの豪華さ。途中で革張りの色を茶色から空軍を象徴する「青」に変え、ポケットを付けるように要求されたため、デザインの変更だけで最低6万8000㌦かかるという。
 ポストに寄せられた読者の意見には、“Typical officer’s abuse of power and money”(役人の典型的な権力と金の乱用)という批判から、“RHIP”(Rank Has It’s Privileges = 階級に従って特権がある)とする退役軍人の弁護まであった。
 ニューヨーク・タイムズ(2008年7月24日付)は、“I’m Comfortable. How About You?”(私は快適だが、君は?)という社説で、“The most offensive part of this project is that the Air Force has been pressing Congress for the last three years for permission to tap $16 million in counterterrorism funds to pay for this indulgence.”(この事案の最も腹立たしい点は、空軍が1600万㌦に上る対テロ予算を過去3年間にわたって議会に要求し続けた挙句、こんな道楽に使うことだ)と指摘。「慰安用のキャビンがアルカーイダを打倒するのにどう役立つのか、説明してほしい」と迫っている。
 さて、軍隊に関わるcomfortの付いた言葉に、Comfort womenがある。これは、第2次世界大戦中、旧日本軍に従属させられたという「慰安婦」あるいは「従軍慰安婦」の英訳。現在でも、中国や韓国サイドの被害を訴えるロビー活動が続いており、米議会ではしばしば政治問題として取り上げられ、日本叩きの材料にされる。
 さて、どちらのcomfortの議論を聞いていても、実にuncomfortable(心地よくない)のは、comfortという言葉がwar(戦争)とかmilitary(軍隊)と所詮相容れないからであろう。第2次大戦時の英国の首相、ウィンストン・チャーチルはこう述べている。“This is no time for ease and comfort. It is time to dare and endure.”(今は安逸や慰安を求める時ではない。勇気と忍耐の時なのだ)。The Sankei Shimbun (August 10 2008)

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